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3回目の丸川荘

 大菩薩の丸川荘には、昨年6月以来行っていませんでした。秋に行くつもりで、行きそびれていたのです。大菩薩嶺は2000mありますが、柳沢峠から丸川峠あたりは1500mから1700mぐらいなので、猛暑の夏はそれほど涼しくはないと思っていました。

 新緑の頃か、紅葉の頃が良いと思っていました。

 

 それでも真夏に行って来たのは、理由があります。

 昨年、白山書房の「山の本」に投稿したのですが、その時には採用されなかったものが、つい先日、今年の秋号に掲載するとの連絡がありました。

 丸川荘のことを中心に書いたので、記事に間違いがないか確認しに行くことにしたのです。電話では、内容について了解を得ていたのですが、細かいことはやはり小屋主の只木さんに直接話を聞いて確認したいと思いました。

 それと、しばらく行っていなかったので、また泊まってみたくなったのです。


 このところ早く起きる癖がついてしまい、家を4時に出発しました。柳沢峠には朝6時前に着きました。土曜日ですが、この時間帯なら中央高速も空いています。

 柳沢峠からしばらくはブナやミズナラの樹林帯です。


 柳沢峠から梅ノ木尾根という六本木峠より手前の分岐点までを周遊コースが作られています。ブナなどの木立の中を散策するのも良いかもしれません。1周1時間半程のコースになりそうです。

 行きには、立ち寄らなかったのですが、梅ノ木尾根から少し周遊コースを行くと展望台があり、奥秩父の主脈がよく見える場所がありました。ここからスケッチをすれば良かったと後から思いました。

 行きにはそちらへは立ち寄らず六本木峠を目指しました。梅ノ木尾根までが柳沢峠から登り坂になります。約30分ほどでした。

 


 六本木峠に着いたのは6:50ぐらいです。このまま丸川峠へ行ってしまうのは時間がありすぎるので、黒川山・鶏冠山に立ち寄ることにしました。六本木峠から往復2時間ほどの寄り道です。

 六本木峠からは道は下り気味に続いていきます。


 六本木峠から15分ぐらいで林道に出ます。これを横切って進みます。幅広い道ですが、昨夜雨が降ったのでしょう。少しぬかるんでいるところがあります。そこへ真新しい鹿の足跡がありました。

 今回、丸川峠までの道には、鹿の足跡がそこら中にありました。


 林道を横切ってから少し行くと、分岐点があり、右手に行くと武田信玄の金山である黒川金山跡に行くことができます。

 戻りみちで気がついたのですが、このあたりの地面は陽に当たると金色に輝く粒がたくさんありました。金のように金色なのです。おそらく黄鉄鉱などの粒だとは思いますが、場所が場所なので「もしかして金?」と思ってしまいました。

 黒川山・鶏冠山への道はここで左に少し登ったところから右手にさらに登っていきます。

 25分ほどの登りで黒川山への分岐点にきました。

 鶏冠山へは、「鶏冠神社方面」と書かれた方へ道を降って行くのです。黒川山は、左手に山頂が見えています。


 鶏冠山は、樹木の根が岩に絡まる道を登ります。まっすぐ行っても良いのですが、左手に斜めに登って行く道が良いです。鶏冠山の右手は断崖になっているので、そちらへ入り込まないように気をつけたほうが良いです。よくみるとピンク色のリボンが道案内として付いています。

 岩も根っこも昨日の雨で濡れています。岩よりも根のほうが滑りやすいので要注意です。


 左手から回り込むような道を行くと突然祠のある大岩の上に出ます。ここが鶏冠山の神社です。

 目の前に大菩薩嶺が見えます。昨年6月に来た時よりは山が霞んでいます。夏らしい景色と言えばそうなのですが、もう少し谷筋などが見えてほしいと思いました。

 水彩を描こうかと岩に腰を下ろしたのですが、そこへ4㎝ほどの黄色い虫がやって来ました。アブならまだ良いですが、スズメバチだと厄介です。そのうちもう1匹やって来て並んでこちらを見ています。

 落ち着いて描けないので、ここで絵を描くのを諦めました。

 もう1箇所、黒川山に良い展望台があるのです。

 黒川山との分岐まで戻り、黒川山山頂を右手に見ながら尾根道を少し行ったところに岩があり展望台となっています。そこから奥秩父の主脈が見えるはずなのです。しかし、雲が多く沸き立ち主脈は霞んで見えませんでした。

 しかし、夏らしい雲の感じでしたから、その様子を水彩で描いてみました。


 六本木峠まで戻って来ました。ここから丸川峠までは1時間半弱です。途中、苔が美しい場所が何箇所もあります。沢筋で岩がある場所には苔があります。六本木峠から10分ぐらいの場所と、寺尾峠と丸川峠の間に美しい場所があります。

 沢筋でも岩が無い場所にはこうした景色はありません。


 六本木峠から45分ぐらいで天庭峠です。その先に寺尾峠があります。


 寺尾峠を過ぎて、美しい苔の道が現れたらもうすぐ丸川峠です。

木の間越しに丸川峠の草原が見えてきて、明るい峠に飛び出します。


 丸川峠に建つ青いトタンの小屋が丸川荘です。小屋の脇の奥にトイレがあります。女子トイレは山の絵を描く中村好至恵さんが壁画を内側に描いてあります。

 泊まる人以外は、他の山小屋同様、トイレを使う時にはチップを入れることになっています。


 寺尾峠で私に追いついた若い男女の二人組がいました。大菩薩へは登らず、丸川荘との往復日帰りなのだそうです。私よりもペースが早いので先へ行ってもらいました。

 私が小屋へ着くと、中で先ほどの二人のうち青年が何やら丸川荘のご主人、只木さんに見せていました。

 檜で作った小さなカップです。檜の板を薄く削り、それを貼り合わせて作ってあるのだそうです。只木さんに見てもらいたくて持ってきたのだそうです。

 只木さんも木彫をやっていて、私は只木さんが作ったコヒーカップを買って持っています。

只木さんのカップは丸彫りですが、この方のは貼り合わせです。とても軽くできています。割れることもあるらしく、色々な種類に木でも試しているそうです。今までに30個ほど作ったそうです。他に竹で作った釣竿も持ってきていました。これは写真を取らなかったのですが、見事です。竹を割って内側の柔らかいところを削り落とし、丈夫な表皮だけを六角形に貼り合わせて作ってあります。楊枝くらい細い先の方も六角形の貼り合わせで作られていました。

 仕事は家具を作る会社の勤めているようで、カップも釣竿を売ってはいないのだそうです。

手間暇かかっているので商売として考えると相当高い値段をつけなければ割に合わないことになります。それをわかって買ってもらえる人は、そう多くはないでしょう。

 この青年からウィスキーグラスぐらいのカップを一つ私はいただきました。只木さんのコヒーカップも使っているうちにいい色になってきましたが、この方のカップも良い色になっていくことと思います。

 若い二人が山を降りて行った後、ご婦人の二人連れが休憩で立ち寄りました。土曜日ということもあり、小屋の前を通る登山者は多いのですが、中に入って挨拶されていく方はそう多くありません。やはり、何度か来たことのある方が挨拶をされて行くようです。

 私は、ここに来た目的の一つである、原稿の内容について只木さんに確認していました。やはり、前回聞いたことの聞き間違いがあったようです。確かめて良かったです。


 丸川荘の外に咲く花を描こうと思って外へ出ました。

残念ながら、道のすぐ近くには花は少ないです。

 丸川峠は草原ですが、昔はもっと花が咲いていたのだそうです。今は柵に囲まれた中だけ花が咲いています。写真は「シモツケ」と「シモツケソウ」です。


 夕方になり、小屋のランプに火が灯りました。外でずっとお酒を飲んでいらした三人の男性が入って来ました。私以外の今日の泊まり客だったのです。

 みなさん70歳を超えていらっしゃるようですが、お酒が強いようで、小屋の中でもお酒を飲まれており、私にも勧められました。私は先ほど青年からもらったカップにお酒をついでもらいました。

 主に丹沢の塔ノ岳に頻繁に登られている方々のようでした。

この方々の山の話は面白く、良い出会いになりました。

 話に花が咲いているうちに夕食となりました。トマト味のキノコや野菜のホイル蒸しとシャケ、ゴボウ、ピクルス、お麩とジャガイモの味噌汁です。なかなか良い味でした。


 翌朝、私は4時40分頃小屋を出発しました。この日の午後千葉で用事があり、午前中までに家に戻る必要があったのです。只木さんは三人の方のために朝食を作っていました。

 挨拶をして小屋を出て、しばらくすると太陽が上がって来ました。

 途中通った苔の岩の所で、穴の中を覗くと苔が緑色に光って見えました。ヒカリゴケでしょうか。

 だんだん陽が昇るにつれて、登山道にも陽が射すようになります。今日も下界は暑くなりそうです。

 柳沢峠には6時半に戻ってきました。山小屋から1時間50分ほどです。

帰りの中央高速は上りはスイスイです。しかし、下りはもう渋滞が始まっていました。この時期の土日は、かなり早朝に動かないと渋滞にハマるのでしょう。

 

 丸川荘には、また秋に来ることにしようと思います。