萩原 浩の本が好き

 萩原浩の本の良さは、エンデイングにあると思います。水戸黄門的一件落着と見る向きもありますが、私は、その点については、安心して読める良さとしてとらえています。それ以上にエンディングの心に残る場面の描き方が萩原浩の作品の魅力だと思っています。映画の最後のシーンとしてどのような映像を持ってくるかは、作品を印象づける大きな要素だと思いますが、それと同じ工夫を萩原氏は考えていると思います。

 好きなエンディングは、「明日の記憶」です。まだ読んでいない方のために詳しく書くことは避けますが、夕暮れの奥多摩の景色の描き方や、セリフ一つひとつに気が配られていて、読んでいて、映画の映像のように場面が浮かびました。

 同じように「愛しの座敷わらし」も良いです。

 終わり方として「えっ」という感じなのが、「噂」です。そもそも両足を切断するという猟奇的な殺人事件が題材ですから、解決もこのような肩すかし的なもありなのかもしれませんが。

 萩原作品の私のおすすめは次の作品です。

・ハードボイルドエッグ

・神様からひと事

・明日の記憶

・愛しの座敷わらし

・花のさくら通り

・母恋旅烏

 ハードボイルドエッグには、最上俊平という探偵が主人公として登場します。最上のきどったセリフが、レイモンド・チャンドラーという作家が描くフィリップ・マーロウという探偵のセリフを真似ていることは、本の中で紹介されます。しかし、私は、レイモンド・チャンドラーという作家を知りませんでした。最初は実在するとも思っていませんでした。しかしハヤカワミステリー文庫で「長いお別れ」を読んで、この作家にはまり、立て続けに「大いなる眠り」「さよなら、愛しい人」を読みました。最近の版は、村上春樹訳になっています。「長いお別れ」が1953年の発表といいますから、ずいぶん昔になります。村上春樹さんの前の訳者である清水俊二さんは、「(レイモンド・チャンドラーは)そのころの僕たちのジェネレーションにとってひとつの教養と言ってもよかった」と書いていますが、私にとっては、新たな新鮮な出会いでした。

 荻原浩の作品の紹介ではなく、レイモンド・チャンドラーの紹介になってしまいまいましたが、フィリップマーロウを萩原流に演出した作品がこの2冊です。十分楽しめます。

「花のさくら通り」はユニバーサル広告社という零細な広告代理店の面々がいい味をだしながら物語が展開するシリーズの一つです。「オロロ畑でつかまえて」が最初で、次に「なかよし小鳩組」と続きます。「なかよし小鳩組」もおすすめに入れられるかもしれません。「花のさくら通り」は、シャッター通りと言われるような閑散とした商店街から焼き直しのような簡単なポスターの製作を依頼されただけなのに、勝手に商店街再生のために動き、町の人たちを巻き込んでいく話です。なかなか物事がうまくいかないことの要因にはこういうこともあるのかなと考えさせます。登場人物がそれぞれの持ち味を物語のなかで発揮していくことがこの本の魅力です。

 荻原浩のベスト1を選ぶとしたら、このどちらかになります。私は、荻原浩を読むきっかけとなったのが「神様から一言」なので印象が強く、こちらを選びます。

 最近せっかくテレビでドラマ化が決まっていたのですが、主役の不祥事でボツになってしまったのがとても残念です。

 内容はぜひ読んでほしいのであまり紹介しませんが、「お客様相談室」へ異動となった主人公の話です。出てくる登場人物はどれも個性的なキャラクターですが、クレーム処理にまつわる様々なノウハウを荻原浩は取材したのでしょうリアル感があります。

 一気に読めてしまいます。

 

 母恋の方は、旅芸人家族がレンタル家族派遣事業という妙な仕事をするところから話は始まります。寛二君という末っ子の視点で、時には鋭く、しかしあっけらかんとした感じに書かれているのは、深刻なドラマになるのを上手に避ける手かもしれません。

そのまま人情喜劇に使えそうな本です。