銅板でバラを作る


 銅板でバラの花を作る方法は彫金工芸家の田中加奈さんに教わりました。比較的短時間にでき、しかも銅板による工芸の基礎的な技法も学べるので、中学校の美術の授業に銅板工芸を取り入れた時に、まず最初に全員に銅板によるバラを作らせたこともあります。

材料や道具について

 銅板は0.3mm厚のものを使用しました。画材店やホームセンターで購入することができますが、私は建築材料店で定尺(365mm×1212mm)というサイズのものを購入しました。その方がずっと安く購入できるのです。

 銅線は、直径4mmまたは3mmと直径2mmの2種類を購入すれば良いです。少ししか作らないのであればホームセンターなどで購入し、たくさん作るのであれば金物屋にキロ単位で注文します。

 あと、必要な道具は、銅板を切るための金切バサミ、ハンダ、ハンダゴテあるいはガストーチ、液体フラックス、耐火煉瓦、ヤットコあるいはラジオペンチ、太い釘と金槌、不要な雑誌または木切れです。

1.パーツの切り出し

 花びらやガクや葉は、金切バサミで銅板から切り出します。少し大きめに切ってから、銅板を回しながらハサミを入れていくようにします。花びらの中心へ向けての切り込みは深めに入れておくと後で曲げやすくなります。

2.焼きなまし

 銅板はそのままでは硬いので、焼きなましという作業を行います。焼きなましは、銅板をガスコンロやバーナーで赤くなるまで熱し、それを水で冷やして行います。鉄は焼いて急冷すると硬くなるのですが、銅や真鍮は水で急冷しても柔らかいままです。

 一番最初のバラの写真が赤みを帯びているのは、この焼きなましの作業で、銅板をオレンジ色になるまで熱し、急冷するタイミングで赤い色が出るのです。

 花びらやガクの中央には銅線が通るくらいの穴を開けます。雑誌や木切れを下に敷いて、太い釘を金槌で打って穴を開けます。

3. 花びらを曲げる その1

一番小さい4枚の花びらが中心になります。先を小さくくるっと丸めた銅線を花びらに通し、丸めた銅線を包むように花びらを巻きつけていきます。バラの蕾を作るときは、これにガクをつければ出来上がりです。

4.花びらを曲げる その2

二枚目の花びらは、少し小さめの5枚の花びらを使います。点線の部分は、花びらのめくれた感じを作るための折り線です。点線が花びらの内側で交差しているのは、このように折ると花びらの先がバラらしくなるのです。

 花びらを曲げるコツは、曲げる時に指や手のひらを使って、花びらの丸いふくらみをできるだけ出すことです。

5.花びらを曲げる その3


 三枚目の花びらの曲げ方は図の点線のようになります。まず花びらの両側を曲げ、そして中央部分を大きく力を入れて手前に曲げるのです。焼きなましが効いて入れば、手でも曲げられます。道具を使うのであれば、ラジオペンチよりもヤットコの方が花びらに傷がつかなくて良いです。

6.花びらのハンダづけ

 花びら3枚とガクをつけたらハンダづけです。ガスコンロの上に花をかざし、熱くなってきたところでガクの根元にハンダを差すと、ハンダが銅線を通した花びらの穴に流れ、花びらが銅線の茎にハンダづけされます。酸化皮膜のせいでハンダがはじくのを防ぐためには、液体フラックスを筆でハンダづけする箇所に差してからハンダづけします。

7.葉を作る


 葉の葉脈をどのように作るかですが、私はペンチで葉を挟んでひねって作りました。他に釘で跡をつける方法も考えられます。葉の枝はバラの茎に使った銅線よりも細いものを使います。銅線をクロスした箇所はハンダづけだと取れやすいので、私はハンダよりも高温で溶ける銅ロウを使いガストーチでつけました。

 中学校の授業で行ったときは、葉の枝づくりはほとんど私が行いました。

 バラの花だけでしたら、ガスコンロだけでできます。

 しかし葉のハンダづけはガストーチでないとできません。ハンダゴテでできないことはないかもしれませんが、時間がかかると思います。

 中学校でやった時には、横に私がついて生徒にやらせるか、あるいは私がやってしまうかのどちらかでした。

8.完成

 葉をつけた枝を花の枝に巻きつけてハンダづけすれば完成です。できれば中心の花びらだけで作った蕾を別に作り、組み合わせるとさらに良いでしょう。

9.硫化着色について

 銅板を黒く着色する方法として硫化着色があります。一番上の写真のろうそく立ては硫化着色です。硫化着色をするための薬品で安価だったのがムトウハップ液という温泉の元の液です。しかしこれは製造中止になりました。そこで「黒化液」などという名称でクラフト関係の店で販売されているものを使うことになります。きれいに硫化着色させるためには、銅板の表面の酸化皮膜や汚れを十分落とす必要があります。一番簡単に汚れを落とすのは、希硫酸の液に漬ける方法です。しかし、希硫酸は服や手に着いたのを気づかずに放っておくと、水分が先に蒸発し、濃い硫酸になってしまい、火傷をしたり服に穴が空いたりします。十分注意を要する薬品なのです。しかし、簡単なので彫金工芸家はおそらくみんな希硫酸を使っていることでしょう。

 希硫酸を使わないとすれば、クレンザーなどの研磨剤とスチールウールや真鍮ブラシを使って根気よく落とすことになります。