穴窯での陶芸

 穴窯は、陶芸の映像でよく見る登り窯とは違い、焼成の部屋が一つだけの原始的な窯です。斜面にトンネルを掘って焼き物を焼いたのが原型と言われています。

 手前で燃やした燃料の松の木の灰が作品にかかり、それが溶けてガラス質の釉になります。これが溶けて流れて溜まるとビードロといって青や緑の美しい流れが作品の表面にできます。また直接炎が作品にあたり、作品の表と裏では大きな変化が出ます。火色という美しい赤が出るときもあります。

 このように、火の勢いや焚き方がそのまま作品に反映し、まさに炎の芸術作りを体験することになるのが穴窯です。

 秋田県の象潟に私の友人のS氏と彼のお兄さんが作った穴窯があります。私は、その初窯の時から窯焚きの手伝いをしました。もちろん私の作品も入れさせてもらっています。


 写真は、2017年の8月に窯焚きをした時の様子です。窯の中は人がかがんで入れるくらいの大きさです。最初は窯づめの様子です。一番奥だけ棚を組みましたが、ここ3回ほど、できるだけ棚を組まないようにしています。入れられる作品の数は減りますが、その代わり全部の作品に灰が降りつもり、炎が当たるようになります。

 以前は、たくさん棚を組んで焼いていたのですが、そうすると手前の作品は良いのですが、奥の作品は変化の少ないビスケットのような作品になってしまいました。そのため、奥に置く作品には釉がけをしたこともあります。

 ここ2回ぐらい炙りに時間をかけています。あぶり焚きとは、ゆっくり温度が上がるようにチョロチョロと火を焚いていくことです24時間300度以下になるようにしました。

 最初は、窯の外で焚きはじめました。

 このような焚き方ですから、素焼きをしていなくても焼くことはできます。しかし、素焼きをしていないと東京から秋田までの移動の際に壊れやすいので、私は素焼きをして持って行きました。


 まだ温度は上がっていません。炙りを十分行うと窯は湿気も取れて温度は上がりやすくなります。2日目からどんどん焚きはじめました。2日目のお昼前には1000度に達しました。


 窯の中の写真は1150度の時のものです。薪を入れると煙突から黒い煙が上がります。窯のある場所は山の中で、広い芝生も広がってので火事になる心配もなく、他人に迷惑がかかることもありません。なかなかこうした環境の良い場所はありません。


 1150度を超えると薪をくべた時は煙突から炎が吹き上がります。

 3日目に日付が変わる頃、窯の温度は1200度に達しました。今回窯焚きはほとんどS氏と私の2人で行いました。私は朝に強いので、先に寝て夜中の1時頃S氏と交代しました。あと1人か2人窯焚きのローテーションに入れる人がいると楽かもしれません。しかし、人数が増えると宴会の様相を呈して結局寝不足になるかもしれません。

 4日目に日付が変わる前のS氏の当番の時に、窯の温度は1300度まで達したとのことでした。

深夜から明け方までの私の当番の時には1280度から1300度を維持するようにしました。1314度まで上がった時がありました。


 4日目の朝、S氏が窯から作品の取り出しを行いました。このとき、松の灰は完全に溶けて流れていることがわかりました。取り出そうとした作品も棚板にくっついた状態でした。しかし、ドロドロの飴のような状態ですから、無理やり剥がして取り出しました。取り出しを行うと粘土の地肌は白っぽくなります。松の灰が溶けてビードロとなり流れているのがよくわかります。

 左端の黒いものは、取り出してからおがくずの中に埋めて炭化させたものです。

 4日目の昼過ぎに窯閉めを行いました。いつもだと、窯閉めの際に薪をいっぱい投げ込んで還元が効くようにして窯閉めを行っていましたが、今回それをやめました。

 窯しめをしてから、私とS氏は新潟県村上市にある笹川流れという景勝地の民宿に移動しました。この日はゆっくりと寝ることができます。

 以前、窯閉めをしてからすぐに帰らなくてはならなくて秋田をすぐに出発したことがありました。しかし、途中の高速道路で居眠り運転をしそうになり、慌ててパーキングで仮眠をとったことがありました。窯閉めをしたあとは、ゆっくりと睡眠をとりたいものです。

 窯だしは日を改めて秋田へ行き行いました。最初に窯を開けた時の様子です。棚板の上の一番手前が空いているのは、棚板に焼きつくのを恐れ、熾の中に引き落とした作品の分です。

 私の右端の丼は、三つ重ねたものがくっついてしまい、しかも熱で歪んでしまいました。S氏とS氏のお兄さんは、古信楽(こしがらき)と伊賀の土を使いました。私も古信楽を使ったものは歪まなかったのですが、右端の丼のように黄瀬土(きのせつち)を使った作品は歪んでしまいました。


 今回の窯で焼いた全ての作品です。手前の丼や皿が私。真ん中がS氏。一番奥がS氏のお兄さんの作品です。S氏のお兄さんの作品は数は少ないのですが、酒器や花器が味わい深い作品になりました。

 S氏の作品は数が多いですが、作品の変化も富んでいます。前回の窯では、ポットの蓋が全て焼き付いてしまいましたが、今回は全て大丈夫でした。まな板皿は窯出し直前の写真でもわかりますが、歪んだものが多く、作品の置き方に問題があったようです。

 私の黄瀬土の作品も、置き方を工夫すれば歪みが少なかったかもしれません。

 黄瀬土は、松の灰をよく引きつけるところがあるようです。おそらく粘土そのものに長石分が多く含まれているのでしょう。灰と反応して溶けて釉薬のようになっていると思われます。

 古信楽が灰のかかりの薄いところが、つや消しの地肌の感じなのに対して、黄瀬土は、裏の方まで艶がある焼き上がりになっていました。

 しかし、1300度以上に焚いて火との格闘の中で面白い作品作りをするなら、穴窯にふさわしい粘土は古信楽が一番ということになりそうです。