北八ヶ岳をめぐる

                                         2016年6月11日(土)〜12日(日)

 私が愛読している山口耀久氏の「北八ッ彷徨」(創文社版は絶版、平凡社から文庫サイズの新版)には「雨池」がとても魅力的に書かれています。1958年頃のことであり、今とはだいぶ様子が違います。その頃は雨池まで、道があるわけでなく、山口さんたちはナタ目をたよりに雨池まで通っています。その文章の中に雨池から麦草峠へ向けて新たなナタ目が刻まれているのを見て、道が出来て大勢人が訪れるようになることを心配している様子が書かれています。

 今回、私はまさにその道をたどって雨池に行きました。誰でも訪れることができるようになり、山口氏にとっての宝物のような雨池ではないのでしょう。それは残念なことなのでしょうが、木道を整備し、自然を大切にしながら美しい自然を見ることができるようにしていくことには私は賛成です。しかし、白駒池の俗化された様子を見ると、雨池には、ボートや山小屋など余計なものはこれから先、あってほしくないと思います。

 幸い、今回私が雨池を訪れた時、私の他には誰も雨池にいませんでした。ひっそりとした中に、美しい雨池があったのです。今回は、「雨池」と「にゅう」を巡るという、山口氏の本に書かれている北八ヶ岳を味わう山歩きとなりました。

 

麦草峠の駐車スペース8:35

茶臼山と雨池方面との分岐8;40

最初は木道が続きます


 麦草峠の茅野寄りの所に無料駐車場があり、そこへ停めるつもりでした。しかし、すでに満車だったので、あきらめて麦草峠へ戻りました。麦草峠とヒュッテとの間にも駐車スペースが国道わきにあり、そこでも良いでしょう。

 国道から登山道へ入ってすぐ茶臼山方面と雨池方面の分岐点になります。雨池への道は、最初は木道が続きます。それから、あまり登り下りの無い快適な道が続きます。そのうち、北八ヶ岳特有の岩ゴツゴツの下り坂となります。岩の道ではなくなったと思ったら、突然林道に出ます。

突然林道へ出ます9:17

林道から雨池への入り口9:24

この先の林道大河原峠線が落石で通行止めという表示です


 林道を7分程登っていくと標識が現れました。林道がこの先、落石のため通行禁止となっており、双子池には林道経由では行けないため、雨池の方を回って行くように案内されていました。私としては、この林道そのものが不要な思いがします。

 雨池へは、ここで林道から木道へ入ります。木道を歩くこと7分程で木の間越しに水面の光が見え、雨池に飛び出しました。雨池の南岸です。雨池は、南北に細長くなっており、南岸側は大きく干上がっていました。干上がってだいぶ経つのでしょう、歩いて行ってもぬかるみではありません。

 東岸は、岩がゴロゴロしています。その岩伝いに歩いて行きました。どこか途中で良さそうな場所を見つけて絵を描くつもりで岩を伝っていきましたが、そのまま北岸まで来てしまいました。北岸側から南岸方面を見た景色が、空の雲の感じや、雨池越しに見える遠くの丸山や麦草峠方面の景色が良く、ここに決めて油絵の道具を出しました。

 

雨池の南岸へ到着 9:32


 F4サイズキャンバスは茶色とグレーの下地の物を二枚用意しましたが、グレーのものを使うことにしました。水面や空や遠景をグレーの下地を生かして描けると思ったからです。

 1時間と少しで筆を置きました。ここで1日乾かし、それから加筆するともっと良い感じになるかなと思うのですが、スケッチとしては、これで良いかなと思いました。正直、集中力が切れたというところです。このまま惰性で描いていくと絵を壊していきそうなので、ここでやめました。雨池に来てから、誰も人影を見ません。思いっきり一人でひっそりとした雨池の空気を堪能しました。


 11:15油絵の道具をしまい、北岸から登山道へ上がり雨池からの帰りは、雨池の東岸の林の中を通る遊歩道を行きました。麦草峠に戻ってきたのが12:30頃です。一旦峠まで上がり、車に置いてきた油絵のジンクホワイトのチューブを小さな絵の具箱に加えて、麦草ヒュッテの所まで戻りました。結局このあと、油絵は描かなかったので、ずっと重たい油絵の具の道具やキャンバスは持ち歩いただけになりました。

 麦草ヒュッテの脇からまっすぐ登る道は、丸山へと続く道です。丸山を超えて行くよりも白駒池経由の方が高見石へ行くには楽だとガイドブックに書いてあったので、今回は白駒池へと途中から左へ折れていきました。白駒池への道はコメツガやシラビソやオオシラビソなどの針葉樹林中をゆるやかに下って行きます。しばらく行くと木道が通る開けたところに出ます。「白駒の奥庭」と表示されていました。その先で、白駒入り口の有料駐車場から上がってきた道と合流します。そこからは人が多くなります。カメラと三脚を持った人たちがたくさんいましたが、白駒池周辺の苔を撮影に来た団体のようでした。板を敷き詰めた幅の広い道は歩きやすく、白駒池まででしたら、街中を歩くのと同じ格好で大丈夫でしょう。

 私は静かな北八ヶ岳を求めていたので、白駒池は足早に通り過ぎました。白駒荘を通り過ぎた先に高見石へ向かう道が分かれています。

12:15丸山と白駒池方面への分岐付近


 13:35頃その分岐を高見石へ向けて登り始めました。道は、写真にあるように石がゴロゴロです。14:15頃高見石小屋に到着しました。

 宿泊の手続きをしてから、2階の大部屋に案内されました。10名以上の団体さんがこれから来られるとかで、私の場所は、部屋の中央あたりとなりました。荷物を置いて、水彩の道具とカメラだけを持ち、小屋の裏手の高見石に登りました。高見石から見た白駒池は深い森に囲まれて、水面が鏡のようで、美しく見えます。山口氏が書いているように、白駒池は水辺から見るよりも高見石やにゅうから見たほうが美しいと言えそうです。腰掛けやすそうな岩を見つけ、水彩画を1枚描きました。


 高見石小屋は、建てられてから60年以上経っている山小屋です。山口氏の「北八ッ彷徨」にも出てきます。小屋の中を良く見ると増築部分との違いがわかります。夕食は山小屋の食事としては良い方だと思います。水場が近くに無いため、水は豊富には無く、宿泊客は水筒などに分けてもらうことになります。寝床の布団は自由に使えるので、夕食前に一眠りしている人もいました。トイレは外にありますが、夜間は2階の大部屋の隣に男女共用の小用トイレが使用できるようになります。

 夕食後、テラスで天体望遠鏡を出して星空観察をしていたようですが、私は布団にくるまったらそのまま寝てしまいました。その代わり早朝に目覚め、夜明け前に高見石に登り、日の出を高見石で迎えました。朝食は6時少し前から始まりました。

 6時半には、高見石小屋を出発しました。高見石から見ると大きく中山が見えますから、朝一のきつい登りは覚悟していました。途中、先に出ていた団体さんを追い抜かさせてもらい、中山展望台には7:35に着きました。中山展望台は、西北側に開けた場所で、蓼科山がよく見えます。絵を描くとすれば蓼科山がポイントとなるでしょう。しかし少し遠すぎます。絵を描くのは「にゅう」に期待して先に進みました。

 中山の頂上はそのまま通り過ぎ、中山峠に向かって下って行きました。途中左手奥にこれから行く「にゅう」が見えます。10分程で「にゅう」への分岐点に着きました。中山が2496m、にゅうが2351.9mですから145m程下ることになります。にゅうの手前で登り返しがありますが、概ね下って行く感じです。

中山展望台からのパノラマ


 にゅうは良いです。白駒池の眺めは高見石の方が良いですが、背後に中山が大きくあります。にゅうは西側に中山から天狗岳に続く尾根がにゅうより高くありますが、尾根の上に突き出た感じの岩で、高度感があります。

 天狗岳が頂上を雲に隠して目の前にありました。雲が切れるのを待って一気に水彩で描きました。

 にゅうの岩の近くには、イワカガミが咲いていました。コイワカガミかどちらかわからないのですが、この可憐なピンクの花は、中山峠から天狗岳にかけてもたくさん咲いています。

 にゅうを9:35に後にしました。途中で木の枝ですべって転倒してしまったので、慎重に下り、白駒池まで1時間半程かかりました。白駒池から麦草峠までは、白駒の奥庭の先で国道に出ました。ヒュッテまで行くよりも近いと思ったからです。国道に出て、ずっと先に見えるカーブを曲がると私の車が見えてきました。麦草峠に停めた車へ着いたのは11:35でした。